3度目に、君を好きになったとき

それから蓮先輩が窓辺のカウンターにお茶を用意してくれて、私たちは隣り合って座った。

景色を眺めながら、他愛もない話をしたあと。

なぜか言いづらそうに目をそらしたまま、蓮先輩が口を開いた。


「結衣って、……誰かにキスされたことある?」


……え?

咄嗟に声が出なかった。

まさか先輩がそんな話題を振ってくるとは思わず、心臓がどくりと嫌な音を立てる。


「……どうして、ですか?」


紅茶のカップを持つ手が震えた。

それを聞いてきたのが千尋先輩だったら『冗談やめてください』と張り倒していたことだろう。


蓮先輩がこんな質問をしてくる理由。

思い当たることといえば、真鳥と中庭にいたときのことだった。


あのとき、真鳥と何か深刻な話をしていて。

そして、唇が私の額に……。


真鳥にされたことを思い出してしまい、唇の端が歪んだ。

キスをされたことがない、と答えたら、嘘をつくことになる。

たとえ嫌われたとしても、好きな人に嘘はつけない。


先輩の澄んだ瞳に見つめられたら、きっと目をそらしてしまうだろう。

だから、正直に答えることにした。


「ある、かもしれないです。……好きじゃない人となら」

「好きじゃない、人と……」


先輩が低く繰り返す。

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