3度目に、君を好きになったとき

「無視……?」

「中学のときに――先輩たちに殴られてる俺のことを、見て見ぬふりをして逃げていったことがあったよな」


霞がかった記憶の向こうに、彼が言ったその光景が浮かび上がる。


複数の生徒に囲まれ、髪の毛を鷲掴みされている彼と、一瞬だけ目が合って――。



「そのことを、あいつにばらされたくなかったら。俺と付き合うって言えよ……」


懇願すら感じさせる瞳で、彼が私を見下ろす。


「お前、あの日俺がイジメられていたことを知ったから、俺に見向きもしなかったんだろ」


沢本君の目元には、卑屈な笑いが見え隠れしている。


「そりゃあ、こんな嫌われてる男より、誰からも好かれてる、あの先輩の方がいいよなぁ」


違う、いじめられていたからってわけじゃない。

そう言いたかったのに、喉がかすれて声が出なかった。


「よく考えたら、俺たち似ているな――嫌われ者同士」


一歩前に詰めてきた彼の制服が、私の体に当たる。

もう、逃げ場がない。


「お気の毒さま。あの女に目をつけられたばっかりに」

「……あの女、って?」


沢本君はスッと目をそらし、話をはぐらかすように私の髪を弄び始めた。
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