3度目に、君を好きになったとき

蓮先輩に、勝手に失恋したことを忘れたくて。

無理矢理、沢本君にキスをされたことを忘れたくて。

未琴から急に無視をされたのがつらくて。



『その記憶、全部消してあげようか』

『……お願い、消して。全部、忘れたい』



……そうだ。

あの日私は、真鳥の誘いに乗ったんだ。

汚された肌を――こぼれ落ちる涙をぬぐいながら、私は真鳥に頼んだ。


忘れ去りたい記憶を、すべて消す。

そんな都合の良い話があるはずないのに。


失恋の傷を癒したくて。

そして、それ以上に、先輩に嫌われたくなかったから。





「真鳥、結衣が思い出したのかもしれない。早く、もう一度消して!」


焦ったような未琴の声に、無表情の真鳥がこちらへさらに近づく。

私の方へ、再度手を伸ばし――



けれど突然、彼は動きを止めた。



「――もう、やめよう。永野」


手を下ろした真鳥が、静かに……どこかあきらめた口調で言う。



「とっくに、手遅れだ」

「え?」

「人の記憶は……人が大切にしているものは、簡単には消去できないってこと」
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