3度目に、君を好きになったとき

――それから数ヵ月が過ぎたとき。

柏木先輩が彼女と別れたという噂が一年の教室にまで流れてきた。

私はそれを複雑な思いで聞いていた。





今日の校内は普段と違う雰囲気で、男女ともどこかそわそわとして落ち着きがない。


私もそんな中の一人で。
ずるいけど、先輩が彼女と別れている隙にバレンタインのチョコを渡そうと考えていた。


それは私だけではなくて、他の女子も同じだった。

美術室の一角で、先輩の周りに群がる女の子達。

代わる代わる、先輩へプレゼントを渡している。


「柏木先輩。これ、チョコなんですけど、良かったら受け取ってください」

「……ありがとう」


少し困ったように笑う蓮先輩は、それでも断ることはせずに快く受け取っている。


私も先輩に渡すため、勇気を出して本命チョコを用意していた。

他のファンの子に混じって手渡す予定だから、たぶん本命とは気づかれないはず。

手紙には勇気がなくて『好きです』と書けなかった。だから『先輩の絵が好きです。これからも頑張ってください』と添えただけだった。

これなら、自分の絵に憧れているのかな、ぐらいだと思う。
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