3度目に、君を好きになったとき



アザラシのスケッチが終わり、次はホッキョクグマ館へと進もうとしたとき。


「結衣」


大好きな、甘くて低い声で自分の名前を呼ばれた。

慣れないその呼び方に胸が鳴る。


「……蓮、先輩」


まだ、信じられない気分だ。

憧れの人に下の名前で呼ばれる日が来るなんて。


「じゃあ、私は先に行ってるね、未琴たちと合流しとく」

「……うん。あとから行くね」


なぜか椎名さんに気を遣われた形となり、先輩と二人きりになってしまった。


「絵、描けてる?」

「はい。アザラシの赤ちゃん、描きました」

「そっか。可愛かったよね。千尋なんて、まださっきの場所で写真撮ってる」

「そうなんですか?」


思わず笑い声をこぼすと、先輩も目を細めて私を見下ろした。


「……次、行こうか」


蓮先輩に促され、同じ方向を向いた瞬間。


――息が止まった。



私の手は、そっと先輩の手に繋がれていた。
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