戦場の翡翠
翡翠は何も言わなかった。

ただその悲痛な表情が全てを物語っていた。

瀏亮もまたそんな翡翠を見て唇を噛み締め、あの日を思い出した。

あの日は長雨のやっと止んだ秋の日。

日も陰り、肌寒い風に身を震わせた時だった。

町外れの市場の少し入り組んだ路地裏から大きな男の声が聞こえた。

瀏亮は気になり覗いてみれば丸々と太った奴隷売りの大男が一人の美しい少女をたった今売り捌こうとしていた。

後方からは泣き叫ぶ少女の母親らしき女がひょろ長い男達に押さえつけられていた。
< 4 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop