あの日交わした約束
二人は音楽室に向かって並んで歩いた。

「アイツ、会長には話しといたからさ、バックアップはしてくれると思う」と宥は言った。

恵美里は頷いた。

「文化祭まで少ししかないのにごめんね?」と恵美里が言うと、「気にすんな。これからずっと一緒にいるんだろう?もし今回機会逃しても別の日に機会は訪れるよ」と宥は励ましてくれるが、その励ましが余計恵美里の心を痛ませた。

「大丈夫ですよ。絶対成功させてみせますから!」と恵美里は強がって笑った。

音楽室に着くと、皆は心配そうに二人を迎えた。

練習なんてとてもじゃないけど、手につかなかった。

「大丈夫なの?!」と皆の声がきれいにそろう。

「一応、湿布は貼ってもらったけど…だいぶ赤く腫れてるみたいでねぇ…」と宥は言う。

「大丈夫ですよ!練習お願いします。もうすぐ文化祭ですし…」と恵美里が言うもんだから皆は頷いて、練習を始めた。

練習を始めて数分、恵美里は時々苦しそうに顔をしかめた。

力強いビートを刻みながらも、少しテンポが遅れたり、ズレたりしていた。

それに気づいた宥が「ストーップ!」と止めに入った。

「今日はここまでな!」と宥は言う。

「何でですかぁ?まだやれますよ?私…」と恵美里は強がる。

「無理すんなって言ったろ?そんな苦しそうな顔して…痛むんだろうが!」と宥は言った。

その言葉に、恵美里は耐えられなくなり泣き出してしまった。

「やだよぉ。せっかくいい感じになってきて…皆と出来るの楽しみにしてるのに‼」恵美里は泣き叫ぶように言った。

徹や豊が駆け寄ってきて、「大丈夫だよ!これからも皆で演奏できる機会いくらでもあるんだから」と励ましてくれる。

でも違う…そういうことじゃない。

文化祭という大きな舞台…恵美里はどうしてもこの舞台に立ちたい理由があった。

もちろん、皆とパフォーマンスを披露するため…

けどそれ以上に、護と交わした約束を果たすため、磨いてきたドラムの技術、成長した姿を護や元メンバーに見せつけるためでもあった。

『最高の仲間と最高の笑顔で演奏する』それが恵美里が望む1番の理由だ。

だから、練習出来ないのが悔しくて辛くて、苦しくてたまらない。

溢れ出る大粒の涙はとどまることを知らずに周りを水浸しにしていく。唇を噛みながら声を押し殺していた恵美里。

そんな恵美里を抱き締めるのはやっぱりここでも宥で…。

徹と豊は自然と数歩下がり、二人に空間を与えた。
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