あの日交わした約束
「さぁ!皆さん今年の文化祭もラストの演目を迎えます!この方々に締めてもらいましょう!椿の皆さんです!」と元気に会長がコールして

恵美里たちは舞台に出た。

思った以上に集まっている人に怯みそうになっている恵美里。

皆は顔を見合わせて大きく頷いた。

能登はカメラを回し始めた。そして、隼人もカメラをスタンバイした。

そして、マイクを手にした勝が口を開いた。

「紹介預かりました、椿です。おおとりを努めることになりました…パフォーマンスを披露する前に、今日はこの場を借りて皆さんに少し話したいことがあります。長くなると思いますが聞いてください」と、勝は言ってマイクを豊に回した。

「ベースの豊です。恵美里ちゃんと出逢った頃のことを少し話そうと思います…」と豊は言うと、恵美里と出逢った経緯を話した。

そして、マイクは祐に回された。

「メインギターの祐です。俺らは恵美里に音楽の楽しさを教えて貰った。どんな時も音楽が俺らに寄り添い、元気にしてくれるんだって…恵美里の笑顔が、ドラムと必死に向き合う恵美里が俺は大好きだ」と祐は言い、徹にマイクは回される。

「ギターの徹です。恵美里は苦しんできた。色んな局面で。中学時代かなりのパフォーマンスをしてきた恵美里が自分の前にいる…しかも、俺と一緒にバンドやりたいって言ってくれてる…これって正直夢なんじゃないかって何度も思ってきた。恵美里を知れば知るほど、音楽を好きになる。失敗は恐れなくていいってしょっちゅう言ってくれた。失敗じゃなくて堂々とアレンジです!風にしたらそれは失敗じゃなくなるって…そんな恵美里がこの舞台にかけた想い、俺らは大切にしてやりたくて、守ってやりたくて…今日は最高のパフォーマンスをしようって皆で約束した」そこまで話した徹は、

最後に勝へとマイクを回した。

「ボーカルの勝です。いじめられ、苦しんできた恵美里。
それでも俺らの前では決して辛い顔1つ見せず、いつも笑顔だった。
だから俺らは本当の恵美里の辛さに、心の傷に気づいてやれなかった。
そんな矢先、事件は起きたんです。文化祭を数週間後に控えたある日のことです。
恵美里はとある生徒に肩をぶつかられこかされました。そのあとも調子に乗るなと何度も蹴られたりして…
そのあと、俺らが助けに入ったときには立てない状況なのに、笑っていて…涙が出そうでした。手を差し出してもその手を握ることさえキツかったんです。
けど、立ち上がった恵美里は笑顔で練習に参加しようとしました。あまり日も無いからと。けど、いざ始めてみると、追い付けないのか、しかめっ面の恵美里…止めたのは宥でした。

宥が止めに入ると、恵美里は初めて俺らの前で涙を流したんです。

それも…痛みや、悲しみではなく、文化祭で演奏出来ないかもしれないと言う悔し涙でした。

そしてその日は練習を止め、病院に行かせました。そしたら、残酷なことに肩を骨折していたんです。

絶望を感じてる俺らにこのときも、文化祭までには治るからと笑顔で恵美里は言いました。

それは俺らもさすがに苦しかったです。

けど、その時俺らは恵美里に誓った。そこまで恵美里がこの舞台にかけた想い大切にしてやらないと!って…

だから、今日、この舞台に立ちます。

恵美里はまだ完治していません。どころか、ハード過ぎる練習で、真っ赤に腫れています。それでも皆に聞いてほしくて、痛み止めの注射をしながらこの舞台に立っています。

その事を、皆さんの心にとどめといて欲しいのです。

俺らの想いを…

では、長くなりましたが、聞いてください、

『レイラ、フルアレンジバージョン』です」と長い話があり、演奏は始まった。

ハルはすでに号泣していて、その背中をさすりながら、「今から泣くなや。アイツ…だいぶ苦しんでたんやな」とノブはぼやいた。

護も半分泣きそうになりながら聞いていた。

能登もカメラを回しながら鼻を啜っていた。

恵美里の主治医は納得したように大きく頷いていた。
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