福山先輩、あのね。

「ん? どうしたの? モモ」


前足をベッドに乗せて、ふさふさと尻尾を振るモモ。真っ黒の瞳がわたしを見上げている。


「……お散歩、行きたいの?」

「わんっ!」


犬は素直でうらやましい。


わたしはモモを連れて散歩に出かけた。11月の夜は空気がひんやりと心地よく、どこかからサンマを焼く匂いが漂っている。

秋は大好きだ。なのに今年のわたしは、この季節を寂しく感じてしまう。

それはきっと、秋と冬のむこうに、福山先輩が卒業してしまう春が待っているから。

< 25 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop