福山先輩、あのね。
「ん? どうしたの? モモ」
前足をベッドに乗せて、ふさふさと尻尾を振るモモ。真っ黒の瞳がわたしを見上げている。
「……お散歩、行きたいの?」
「わんっ!」
犬は素直でうらやましい。
わたしはモモを連れて散歩に出かけた。11月の夜は空気がひんやりと心地よく、どこかからサンマを焼く匂いが漂っている。
秋は大好きだ。なのに今年のわたしは、この季節を寂しく感じてしまう。
それはきっと、秋と冬のむこうに、福山先輩が卒業してしまう春が待っているから。