福山先輩、あのね。
先輩は一瞬驚いた顔をしたけれど、足を止めることなく目線だけこちらを向いて
「……ありがとう!」
さわやかな笑顔でそう応え、すぐ横を通り抜けていった。
秋の夜の空気に、ふわっと熱い風が混ざる。胸がつかまれたように、わたしは彼の走っていった方向を振り返る。
遠ざかる先輩の背中。大好きな背中……。
やがて姿が見えなくなり、足音も聞こえなくなると、とたんに心臓がバクバクと高速で動き出した。内臓が全部ひっくり返って大暴れしているみたい。
「い……言った……」
言ったんだ。わたし、自分から声をかけたんだ。
そしたら先輩……わたしを見て
「ありがとう」って……。