福山先輩、あのね。


そしてその頃からわたしは、家では少しだけお母さんの手伝いをするようになった。

と言っても、料理はまったくの苦手だし、掃除をしたら逆に散らかる始末。

学校の授業は、あいかわらずチンプンカンプン。体育もやっぱり嫌い。

でも、向き合う気持ちが前とは少しだけ変わった気がした。


福山先輩との関係は、今までどおり遠くから見ているだけだった。

あの夜拾ったタオルを返そうと何度もしたけれど、結局話しかける勇気がなくて返せないままでいた。

いや、もしかしたらわたしは、タオルを返せば先輩との接点がなくなってしまうのが寂しくて、返せずにいたのかもしれない。


……ねえ、先輩。

贅沢は言わない。片想いでいいの。

だからもう一度……あの夜みたいに笑いかけてほしい。

ほんの少しでいいから、先輩に追いつきたいよ……。


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