福山先輩、あのね。
――12月中旬。駅伝大会がいよいよ明日に迫った日。
わたしは小さな紙袋を持って、放課後の昇降口にひとりで立っていた。
袋の中には、秋の夜に拾った先輩のタオル。たったひとつの接点を手放したくなくて、ずっと返せずにいたもの。
まわりに人がいないことを確認し、わたしは先輩の下駄箱の前に立った。
キレイにそろえて入れられた上履き。福山先輩らしいなって、ついそんなことを考えて、胸がキュッとなる自分がなさけない。
わたしは紙袋を下駄箱に入れた。そして、しばらく迷った末に、一枚のメモをそこに添えた。
『駅伝がんばってください』
あの夜、ドキドキしながら先輩にかけたのと同じ言葉。もうあの日のように先輩が笑顔で応えてくれることはないけれど……。
これで、最後だから。
わたしの初恋を終わらせるから。
最後にどうしても、伝えたかったんだ。