福山先輩、あのね。

「……あ……あの……」


数秒間の沈黙をやぶったのは、震えるわたしの声だった。けれどその先の言葉が見つからず、口をぱくぱくさせて浅い呼吸をくり返す。

先輩……すごく気まずそうな顔してる。
当たり前だ。わたしが先輩を好きだってこと、あんな形で全校生徒にバレちゃったんだから。

もしわたしが先輩の立場なら、こんな風にばったり会ってしまうのは、気まずい以外の何物でもない……。


「あ、福山、もう戻ってきたのか?」


ふいに男子の声がして、わたしたちは絡み合っていた視線をサッと解いた。

< 54 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop