福山先輩、あのね。

……願いは、聞き入れてもらえなかった。うなだれた福山先輩が、保健委員に肩を貸してもらいながら去っていく。

その寂しい後ろ姿を見つめながら、わたしは立ち尽くしていた。


「沙和」


いつの間にか追いかけてきたらしい木下が、わたしの肩に手を置いた。


「戻るぞ」

「……うん」


木下に連れられて、グラウンドをあとにする。

木下は何も言わなかった。いつもの彼なら「何バカなことやってんだよ」って悪態つくくせに、今日は何ひとつ言おうとしなかった。

……あきれすぎて、言葉もないのかな。みんな絶対、引いたよね。
きっと福山先輩だって、「何こいつ」って思ったはず。
< 68 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop