福山先輩、あのね。
「今日は先に帰るね」
まだおしゃべりが終わりそうにないみんなを残し、わたしは教室を出た。
校舎の一階におりて、下駄箱の前で靴を履き替える。グラウンドから響いているのは、福山先輩の掛け声。わたしはそっと、昇降口から外をながめた。
「がんばれーっ! あと3周!」
舞い上がる砂。飛び散る汗。そんな中で、誰よりも大きな声を張り上げる先輩の姿。
いいなあ……陸上部の人たち。先輩に励ましてもらえるなんて、うらやましい。わたしもあの声で「がんばれ」って言ってもらいたいよ。
そしたらほんとに、もうちょっとくらいは、がんばれそうな気がするんだ。
勉強とか、運動とか、将来のユメとか?
大人たちがいつも「がんばれ」って言う、様々なこと。何をどうがんばればいいのかわかんない、ウンザリなこと。
そのとき、帰ろうとしたわたしの目の前に、ふたつの影が現れた。