マリンスノー
「そうです。」

バレないよう、微笑みながらそう答える。
作り笑いで塗り固められた自分の表情に吐き気を覚える。
でも雪加瀬さんにはバレてないみたいで、微笑み返してくれた。

雪加瀬さんは、先週うみくんに助けられた女の子だ。
体育の時間、体調不良で倒れた雪加瀬さんはうみくんに抱きかかえられて保健室へ運ばれた。
この時点で私は、今から雪加瀬さんに何を言われるのか見当がついていた。
だからこそ、自分の思いがバレてしまわないようにこの1週間この恐れに対して心の準備をしてきた。

「あの、堀川さんに聞きたいことがあるんですけど。」

「なんですか?」

「その……堀川さんって水原くんのお付き合いされてるんですか?」

予想通りの質問に、用意してきた言葉で返す。

「付き合ってないですよ!ただの、幼なじみです。」

そう雪加瀬さんに伝えると、彼女はぱあっと花が咲いたように笑みを浮かべた。
喜びと安心。そして、期待。
まるで映し鏡みたい。恋する女の子の瞳をしていた。

「あ、あの……私、水原くんのこと好きになっちゃったみたいで。」

やっぱり予想通りで。
真っ直ぐな彼女を見て、うみくんを思い出した。

「私、応援しますね。」

自分で自分を苦しめる言葉を、そっと吐き出した。
ヒリヒリと息ができなくなる痛みが全身に走る。
裏腹な言葉を口にして、嘘をつくことの苦しさを味わった。

「ありがとうございます、堀川さん!」

眩しいくらいに輝いて、悔しいくらいにかわいい笑顔を私に向ける。
そして、むなしさだけが心に残った。

彼女は、雪加瀬さんは。この学校では有名人だ。
“かわいい新入生がいる”
1年生の時、そう話題になった新入生が雪加瀬さんだった。

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