マリンスノー
……っ。
声にならない叫びが、心の中に響き渡る。

よくできた子。誰からも愛される子。
その噂は当然真実で、彼女は。雪加瀬さんは。
私がうみくんの幼なじみで、ずっと一緒に過ごしていて。
だからこれからも、それは変わらないでいると信じているうみくんまるごとを受け入れたんだ。

……私が傍にいたとしても。うみくんは自分を選んでくれる自信があるから。

それは、うみくんが私に対して一切そう言った感情を抱いていないと分かっているから。
私が1番よく知っている事実。

そして。
“水菜”

これまでうみくんが下の名前で呼ぶ女の子は私だけだった。
私だけの、特別。
私だけの……。

一瞬、息ができなくなる。
その後、一気に空気が肺に流れ込んでただ苦しい呼吸だけが続く。

息をすることすら辛い。
今うみくんの隣を歩いていることが苦しい。
隣にいるのに、いないみたい。
うみくんの居場所は、もうここにいない。

「だからこれからも凪と一緒に帰るよ。」

「……うん!」

泣くのをこらえてうみくんに向けた作り笑いは。
今までで1番本物に近い偽物だった。

結局私は、うみくんを諦められない。
こんな残酷なことをするうみくんの手を手放すことはできない。
私は、うみくんと一緒にいる時間を捨てることなんてできない。

だから私は。
みじめでも、哀れでも、浅ましくても。
うみくんの残酷な優しさに縋り付くんだ。

たとえ、家族だと言われても。
一度も、家族だなんて思ったことなくても。
私は、うみくんの家族以上の存在にはなれないのだから。

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