マリンスノー
*
「あっ。堀川さん!」

廊下を歩いている途中、名前を呼ばれて振り向くと。
そこには雪加瀬さんが手を振りながら私の方へ近づく姿があった。

うみくんと雪加瀬さんが付き合い始めてから2週間が経った。
登下校はいつもと変わらずふたりで。
学校にいるときも、基本うみくんたちが一緒にいるところは見かけなかった。
たまにお昼を一緒に食べたり、廊下ですれ違い際に微笑み合うくらい。
でも、そんなつかずはなれずの距離感が。
私には羨ましくて仕方がなかった。

「こんにちは、雪加瀬さん。」

「ふたりで会うのは、あの時ぶりですね。」

ふふふと口に手を当てる姿はやっぱりかわいくて。
うみくんと付き合い始めてからはさらにかわいさに磨きがかかった気がする。

「そういえば私、先週うみとデートに行ったんです!」

初めて聞かされる情報に思わず戸惑いを隠せずにいた。

「あれ、うみから聞いてなかったんですか?
 てっきり堀川さんには何でも話してると思っちゃった、えへへ」

悪意なく言っているのが分かる。
それでも傷つかずにはいられなかった。

分かってる。
彼女は私がうみくんのことを好きだって知らない。
応援するなんて言ったくらいだもん。
気づくはずない。

それに、うみくんは私に隠し事はしない。
その日に起きたことは基本教えてくれるし、休日もほぼ毎日会っているから知らないことの方が少ない。

確かに先週、図書館に行くと出かけたことがあった。
うみくんはよく図書館に出かけるからいつも通り読書に行ったんだと思ったけど。

「もしかして、デート先って図書館ですか?」

「えっ、どうして分かったんですか!」

うみくんは嘘をつけない。
嘘をつくと顔が真っ赤になってしまうから。

小学生の頃、うみくんママのコップを割ってしまったとき。
僕じゃないと嘘をついていたけど。
顔が真っ赤っかになってすぐにバレてしまった。

それ以来、私たちや家族の間ではうみくんは嘘をつけない。

確かに嘘じゃない。
でも、きっと隠したかったのは事実。

< 16 / 52 >

この作品をシェア

pagetop