マリンスノー
「私もうみも本が好きだったので。
 デートの日は、一日中お互いに好きな本を教え合って読んでたんです。」

「そう……なんだ。」

「うみって近代文学が好きなんですね。私は外国の小説が好きであんまり日本の文学には触れてこなかったんですけど、うみの教えてくれる本は読みやすくてどれも好きになりました。」

「うみくんは、本が好きだから……」

「それから……」

雪加瀬さんの声が遠く聞こえる。
頭に全然入ってこない。
口が動いているのに音がない。無声動画のよう。

私は読書に興味がなかったし、うみくんも知っているから。
本の話なんてしたことなかった。

ふたりは似ている。
頭も良くて、趣味も同じで。価値観も似ている。

私の心はますます劣等感と黒い渦でかき混ぜられていく。
吐き気がする。

「堀川さん大丈夫ですか?」

その声を聞いた瞬間、弾けたようにあたりが騒がしくなる。
遠くに聞こえていた音が今では近くに聞こえて。
雪加瀬さんの声もしっかり聞こえる。
心配そうにのぞき込むその顔は、やっぱりかわいかった。

「ちょっと寝不足で……」

「保健室に行きますか?」
「大丈夫!教室で少し眠れば治ると思うから。」

「ならいいんですけど……」

心配性な所までそっくり。
やだなあ、似てるところばかり見つかっちゃう。

これ以上、自分が嫌いにならないように。
雪加瀬さんに別れを告げて、私は教室へと向かった。

でも途中、窓に映る自分の顔を見てどれだけひどい顔をしているのか気づいた。

「……これは心配されるよね。」

寝不足で腫れた目にくっきりと浮かぶクマ。
食欲がなくまともに食べていなかったせいか顔がやつれていた。

そんな自分の姿を見たら教室に戻る気がなくなって。
ふらり、屋上への階段を上った。
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