マリンスノー
開いているなんて期待はしていなくて。
ドアノブに手をかけるとやっぱり鍵は閉まっていた。

ドアにもたれかかるようにして座り込む。
誰もいない空間。
しばらくしてチャイムの鳴る音が聞こえてくる。

体育座りをしてできた空間に顔を埋めていると。
遠くから先生の授業を始める声が聞こえてくる。

授業サボっちゃったなあ……。

うみくんの姿が見えるから、授業をサボることはなかった。
真剣に黒板を見る姿は、とてもかっこよくて。
いつ見ても綺麗だったから。

でも今は、その姿さえ。
見るだけで苦しくなる。

しばらくしてあたりの音すら聞こえなくなる。
自分のとくとく、規則的に音を立てる心臓音だけが耳の奥まで届く。

ゆったりした自分の息づかい。
それが段々と早くなって、乱れていく。

気づけば身体は冷たいのに目頭だけが熱くなって。
“はあっ”と息を短く漏らした瞬間。
ボロボロと大粒の涙が零れだした。

スカートを握る手を強くしても。
爪を立てて涙を止めようとしても止まる気配はなくて。
勢いは増すばかり、声を漏らしながら私は泣き続けた。

どうして私は、うみくんの彼女になれないんだろう。
どうして私は、好きの2文字すらうみくんに伝えることができないんだろう。

嘘つき。
私の、大嘘つき。

なにが、幼なじみのままでいいなのよ。
このままがいいなんて、一度だって思ったことないくせに。

本当は誰よりもうみくんの彼女になりたいって思ってるくせに。

みんなから、「ふたりって本当に付き合ってないの?」とか。
お似合いだって言われる度に、優越感に浸ってた。

そんなことないなんていいながらも、とても幸せな気分だった。

私だけが知っている水原うみ。
誰にも知られたくない。私だけが知っていたらいい。

こんな、醜い感情ばかりを抱いているから。
私は、うみくんの彼女になれなかったんだ。

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