マリンスノー
*
今日は目覚ましが鳴る前に起きた。
鏡の前の自分はいつもより目がぱっちり開いている気がする。

昨日の夜、ホットタオルでむくみとりしてパックしたかいがあった。
お風呂だって少し長めに入ったし。
デトックス効果あったのかも……。

むくみのない自分の顔を見てにっこりしながら、私は出かける準備を始めた。

髪の毛は緩く巻いて、お気に入りの紺色のリボンバレッタをつける。
白色のブラウスにブラウンのカーディガン。
ベージュのチェックロングスカートをはいて、もこもこのブルゾンを羽織る。
マフラーは小さい頃、うみくんから誕生日プレゼントにもらった赤色。

首元に、橘花ちゃんにもらった甘めの匂いがする香水をワンプッシュふりかけて。
鏡で前髪を整えたら完成。

変なところないかな……。
ちょっと気合い入れすぎかもって思ったけど。
これくらいは、許してよね。

約束の10分前、うみくんを迎えに行こうと玄関の扉を開けると。
表札近くでもたれかかるうみくんの姿を見つけた。

「うみくん?」

「あ、凪。おはよう。」

うみくんの元へ駆け寄ると、耳が赤くなっていて。
外でずいぶん待っていたことを物語っていた。

「中に入ってたら良かったのに。」

「なんか、外で待ちたい気分だったから。」

「風邪引いちゃったらどうするの。」

「そこまで考えてなかった。」

へらりと笑う姿が愛おしくて。
私もつられて笑ってしまった。

「今日はどこに行くの?」

「んー、映画かな。」

「映画?」

うみくんが映画なんて珍しいなあ。
映像モノはあんまり好きじゃないからって。
活字ばかり読んでいるのに。

「気になる映画があるんだ。」

そう言って映画館へ着いてチケットの列に並ぼうとすると。
うみくんは私の袖をくいっと掴んだ。

「うみくん?」

「券は、もうあるんだ。」

「え?」

そう言って渡されたチケットに書かれていた映画のタイトルは。

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