マリンスノー
ココアは、うみくんが好きな飲み物だったっけ。
いつの間にか私の方が好きになってて。
でもそれは、うみくんが美味しそうに飲んでるのを見たからで。
やっぱり私は、うみくんが好きなココアが好きなんだなあ。

幼い頃、うみくんママの入れるホットココアをふたりでよく飲んでた。
お店みたいに本格的なモノじゃなくて。
よく売ってる、スティックの粉末をお湯で溶かしただけのココア。
でも時々。
今日は特別だからって、ミルクを温めて入れるココアは美味しくって。
ふたりでその日は、スペシャルデーって言ってたっけ。

今飲んでるココアはマシュマロが甘くって、ココアはほんのり苦くて。
でも、やっぱりとびきり甘い。

うみくんもきっとここのココア好きだろうなあ。
テイクアウトできたら教えてあげようかな。
でも買いに来るの面倒くさいって言いそう。

……雪加瀬さんが一緒なら、うみくんも来るのかなあ。

一度だけ、我儘を言ったことがある。
どうしてもうみくんと行きたくて。
誕生日プレゼントも何もいらないから、一緒に来てほしいって。
うみくんに頼んだことがある。

今思うと、そんなに必死にならなくてもいいのにって思うことだけど。
その時の私にとっては、一大イベントだったんだよね。
*
「ねえ凪知ってる?」

「どうしたの?橘花ちゃん。」

「ここのチョコレートを好きな人と一緒に並んで食べると、ふたりは永遠に結ばれるらしいよ。」

「なにそれ!」

中学生の時、校則で禁止されていたのに雑誌を持ってきていた橘花ちゃんがこっそり私にそのお店が載っているページを見せてくれた。

赤いハートと白いハートが1つずつ入ったボンボンショコラ。
赤いハートは愛情の印。
白いハートは誠実の証。
そのハートをふたりで一緒に食べると、ふたりは真実の愛で固く結ばれるというもの。

実際にそのチョコレートを一緒に買いに行った他のクラスの子たちが付き合い始めたり。
ネットでも同じような成功例が出たりしてるみたいで。

私もそのジンクスじみたものの虜になった。

「凪も水原と行ってきたら?」

「でもこのジンクスうみくんも知ってたら……」

「水原だよ?知ってるはずないじゃん。」

「……確かに。」

うみくんは噂に疎いし、こういうのに興味ないから知らないかも。
……だったら。

「行ってみようかな。」

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