マリンスノー
「申し訳ありません。
 先ほどのお客様で売り切れてしまいまして……」

「えっ……」

売り切れのことまで考えていなくって。
でも、これだけ人気なんだからあり得ることで。

だけど。
すっごく楽しみにしてきて……。
うみくんにも無理言ってついてきてもらったのに……。

泣きそうになるのをこらえながら。
何か言わなきゃって口を開こうとしたけど。
震えて何も言えなかった。

店員さんが不審そうに私の方を見ていて。
でも何も言えない私はきゅっとスカートの裾を握ると。

「すみません、そのピンク色の箱のチョコレートください。」

うみくんがそう呟いた。

「……うみくん。」

お店を出た後、私はうみくんの後ろを歩いた。
何も話せなくて、電車じゃお互いに無言だった。
家から近い公園付近で、私はやっとうみくんに声をかけることができた。

「なに?」

「……ごめんね。」

私が謝ると、前を歩いていたうみくんが振り返って私の元まで歩いてきた。

「どうして凪が謝るの?」

「だって……せっかくついてきてもらったのに、チョコ売り切れてたから。」

「チョコを食べたかったのは凪で、僕じゃないよ。
 だから、謝らなくていい。」

「でも……」

「また付き合ってほしいなら一緒に行くよ。」

「えっ……」

「どうしても凪が食べたいって言うならついて行くよ。」

だって凪の頼みだから。
そう笑顔で言ううみくんに胸がぎゅっと締め付けられる。

「これ。」

そう言ってうみくんはさっき買ったチョコレートを私に差し出した。

「そこで食べていかない?」

公園を指さしながら言ううみくんの言葉に。
私は頷いた。

うみくんが買ったチョコレートを、落ち込んでいた私は見ていなくって。
ピンク色をしたハートの形の箱を開けると。

「……わあ。」

赤色と、ピンク色。
たくさんのハートのチョコレートで埋め尽くされていた。
「真実のハートセット、だっけ?
 商品名にハートがついてたからハートのチョコが食べたいのかと思って。」

「……っうん、私ハートのチョコが食べたかったんだ。」

ジンクスなんて、関係ないや。

「うみくんも一緒に食べよう。」

赤色と、白色のハートじゃなくたっていい。

「うみくんがピンク色食べてね。」

うみくんと一緒に、このチョコレートを食べられたら。
それが、もう私にとってのジンクスになる。

「ピンクは凪の方が似合うよ。」

好きだよ、うみくん。
ジンクスなんかに頼らなくたって。
今日のうみくんの優しさがあれば私、なんだって乗り越えられる気がする。

一緒に食べたチョコレートはとびきり甘くて。
小さい頃、ふたりで飲んだミルクたっぷりのココアを思い出した。

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