マリンスノー
白い息が空へとゆらゆら舞っていき。
身体は小刻みに震える。
髪の毛も、解けた雪でしっとり濡れていて。
バックも濡れて中の教科書が心配だけど。
もうそういうの、ぜんぶどうだっていい。

この雪が、私の汚い心全部洗い流してくれたら良いのに。
……うみくんへの恋心が、雪みたいに解けてなくなってしまえばいいのに。

叶いもしないことを願い続ける。
無意味だと分かっていても、願わずにはいられなかった。

「……っく、うぅ……っ。」

気づけば涙があふれ出していて。
私は子供みたいに声を上げて泣きじゃくった。

心の中のうみくんへの恋心をかき消すように。
ただただ、声を荒げて泣いた。
涙が枯れますようにと、願いながら泣き続けた。

好き。
大好き。
誰より、雪加瀬さんより。
ずっとずっと前から、うみくんが好き。

誰より先に好きになって、誰よりもずっと想い続けてきた。

どうして、私じゃダメなの?

どうして恋愛は、早いもの順じゃないの?
私が先に好きになったんだから、私のこと好きになってよ。

他のもの全部捨てたっていい。
うみくんしかいらない。
何もいらないから、何も望まないから。
だから。
…………だから。
うみくんだけは、取っていかないで。

ふと、私に降り続ける雪がやんだ。

顔を上げれば、傘が視界を覆っていて。
目の前には、見覚えのある靴があった。

「ねえ、凪。」

優しい声が、私を包み込む。

「俺さ、凪のことが好きなんだよね。」

傘の向こう。
現れて微笑む君は。
私に向かってそう呟いた。

雪はやむことを知らずに、私たちを濡らし続けていた。


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