マリンスノー
雪が霞くんの頬を伝う。
雪だと分かっている。
分かっているのに。
雪が解けたしずくがなんだか涙みたいで。
霞くんが泣いているみたいで。
余計に胸がぎゅっと締め付けられる。

「霞くん。……濡れちゃうよ。」

今更意味ないって分かってるけど。
私は、霞くんの震えた手を握るように傘を持ち、霞くんと一緒に傘の中に入った。

「私、霞くんのこと傷つけちゃうよ?」

「それでもいいよ。」

「絶対苦しい思いしかしないよ?」

「それでもいいんだ。」

「私、……忘れられるのかな。」

「忘れさせてみせるよ。」

「……霞くん。」

「もう何も言わなくていいよ。」

言わなくてももう分かったから。

そう言って、霞くんは傘を投げ出して私を抱きしめた。
どれだけ雪に降られてもそんなのどうだっていい。
霞くんの体温に身を委ねつつ。

私は霞くんの背中に手を回し、存在を確かめるようにぎゅっと抱きしめた。

*
「ひゃあああ~!」

また思い出して私は、顔を紅潮させながらジタバタした。

霞くん、本物の王子様みたいだった。
告白の仕方までかっこよくって……。

見た目細いのに、抱きしめられると少し筋肉質な身体にドキドキせずにはいられなかった。

うみくんのこと、まだ好き。
十何年来の片思いはそんな簡単には消えてくれない。
でも、確かに少しずつ霞くんが気になり始めている。

背が低めのうみくんとは違って。
すらりと身長が高い霞くんと歩くと、顔を見上げなきゃだし。
だけど、少しかがんでくれたりするところにきゅんっとしてしまう。

声が高めのうみくんとは違って。
声が低い霞くんと話していると心地よい。

うみくんとは全然違う男の子で。
でも、ちゃんとどきどきしてる。

きっと、霞くんに恋する準備をしている最中。
だから私、きっと。

霞くんのこと好きになれる。

白色のテディベアを抱きしめながら。
そう、独り言を呟いた。

*
朝、身支度を終えて家を出ると。

「わっ!?!!」
「びっくりした。」

「びっくりした、はこっちの台詞だよ!!」

「あはは、驚かそうと思ってたのに凪の声で俺が驚いちゃったよ。」

朝からキラキラした笑顔を私に向けてくれるのは、彼氏の霞くん。
特に約束していたわけではないのに。
霞くんは私の家の前にいた。

「ど、どうして私の家分かったの?」

「この前送ったでしょ?」

「あのときだけで?」

「うん。」

記憶力いいんだ、霞くん。
確か、テストの成績上位者の張り紙にも名前があった気がする……。
イケメンなうえに、勉強までできるなんて……。

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