マリンスノー
うみくんは今まで1度も彼女ができたことがない。
容姿が悪いわけでも、性格に難があるわけでもない。
少し幼めの顔立ちに、マイペースな性格。
でも、目立つタイプじゃない。

教室では本を読んでることが多いから女子と話す機会もあんまりないし。
男子ともたまに話すくらいで、基本的にひとりか私と行動することが多い。

だから、うみくんのことが好きだっていう女の子も。
うみくんが好きになった女の子もいない。
私の知っている限りだけど。

「凪が告白したら良いのに。」

「無理だよ!」

「そうかなあ、案外上手くいく気がするけど。」

「ないよ。……絶対。」

そう、絶対に。うみくんは私を好きにならない。
だってうみくんは。
私をそういう目で見たことは一度きりだってないんだから。

すっと目線をうみくんへ向ける。
次の時間は体育で。
運動が苦手なうみくんは少し眉間にしわを寄せながら体操服が入ったバックを持っていた。

他人が気づかない些細なうみくんの仕草。
言葉がなくても何を思っているのか分かるくらい一緒に過ごしてきた。
だから、誰よりうみくんのことを知っているって自信も。
誰よりも想っているって自信もある。
でも、それでも。私はうみくんの彼女になることはできないんだ。

「今日の体育なんだっけ。」

「マラソン?って聞いたけど。」

「はあ……。休もうかな。」

「そろそろ出ないと先生に怪しまれちゃうよ?」

「……マラソンなんて滅びればいいのに。」

橘花ちゃんの悪態に笑いつつ、私たちも更衣室へ向かった。

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