マリンスノー
*
「待って……凪、早い……」

「橘花ちゃん頑張って!」
今日の体育は男女合同でマラソン。
マラソンって言っても、運動場をぐるぐると走るだけなんだけど。
風が冷たい12月の外。
授業が始まるまでは凍えて死にそうなくらい寒かったのに。
走り始めて5分経った今、風の冷たさが心地よくなるくらい身体は温まっていた。

橘花ちゃんは長距離が苦手で。
こういう同じ事を繰り返すルーティン作業が嫌いだ。
私もあんまり得意じゃないから、ふたりでゆっくり走っている。

「ていうか、水原ウケるんだけど。」

「うみくん?」

きょろきょろと運動場を見渡すと、すぐにうみくんの姿を見つけられた。
体操服を着ると、より薄い身体が目立つ。
どんよりとした空気を纏いながらゆったりと走る姿に私と橘花ちゃんは笑ってしまった。

その時、

「水菜!」

女の子の叫び声と同時に、ドサッと人が倒れる音が聞こえてきた。
ぱっと後ろを振り向くと、女の子が苦しそうに息をあげながら地面にうずくまっていた。
みんなどうしようって混乱していて。
私と橘花ちゃんも例にならって、オロオロしてしまっていた。

こういうとき、どうしたらいいんだろう……。

焦っていると、駆け寄ってきたひとりの男の子がさらりとその女の子を抱き上げた。
その姿はまるで映画のワンシーンのようで。
軽々と女の子を抱きかかえたその子は、先生に「保健室へ連れて行きます。」伝えそのまま校舎へと向かって歩き出した。

他の生徒は呆然としたあと、女の子たちはきゃあああ~と声を上げた。
他の人にも見え方は一緒で。
お姫様を抱きかかえお城へ向かう王子様のよう。
誰もが羨む、そんな映画のラブシーンのようだった。

みんなが色めき立つなか、私だけは現実を受け止められずにいた。
その姿に橘花ちゃんも気づいていて。
それでも、私にかける言葉が見つからない。そんな表情をしていた。

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