マリンスノー
女の子を抱きかかえた王子様は、うみくんだった。
あんな細い身体からは想像できないくらいひょいっと女の子を抱きかかえていた。
私は、あんなうみくんを知らない。
うみくんに抱きかかえられたことだってない。
黒くて濁った感情が心の中を埋め尽くす。
この得体の知れない嫌悪感に支配された感情を私は知らない。
でも知りたくない。
この気持ちが溢れてしまわないよう、私は血が滲むまで唇を噛みしめた。
そして、恐れていたことが現実になった。
「堀川さんっていますか?」
あの体育の一件から1週間。
学校の話題はそのことで持ちきりだった。
うみくんは気にした様子はないし。
その日の帰り道に、どうして助けたのか聞いてみると。
『僕、保健委員だったから。』
やっぱりうみくんはうみくんで。
安直で、素直な回答が返ってきた。
それでも、もしかしたら起きるかもしれない出来事に私は恐れていた。
そしてその恐れは、形として現れて私の元へやってきた。
「私が堀川ですけど。」
「あの、少し時間もらえませんか?」
艶やかな天使の輪がある黒髪を揺らしながら訪ねる彼女の言葉に。
私はこくりと頷いた。
屋上へ連なる階段の途中。
屋上への入場が禁止されている私たちの学校で、この場所に近づく人はいない。
内緒話をするにはうってつけの場所だった。
「いきなり呼び出しなんてごめんなさい!」
勢いよく頭を下げて謝る彼女に慌てながらも気にしないように声をかける。
眉を下げながら顔を上げる彼女はやっぱり噂通りかわいい女の子だった。
「私、2組の雪加瀬水菜って言います。」
「あ、私は……」
「堀川凪ちゃんですよね?……水原くんの幼なじみの。」
“幼なじみ”
その言葉が、まるでナイフのように私の心に突き刺さる。
あんな細い身体からは想像できないくらいひょいっと女の子を抱きかかえていた。
私は、あんなうみくんを知らない。
うみくんに抱きかかえられたことだってない。
黒くて濁った感情が心の中を埋め尽くす。
この得体の知れない嫌悪感に支配された感情を私は知らない。
でも知りたくない。
この気持ちが溢れてしまわないよう、私は血が滲むまで唇を噛みしめた。
そして、恐れていたことが現実になった。
「堀川さんっていますか?」
あの体育の一件から1週間。
学校の話題はそのことで持ちきりだった。
うみくんは気にした様子はないし。
その日の帰り道に、どうして助けたのか聞いてみると。
『僕、保健委員だったから。』
やっぱりうみくんはうみくんで。
安直で、素直な回答が返ってきた。
それでも、もしかしたら起きるかもしれない出来事に私は恐れていた。
そしてその恐れは、形として現れて私の元へやってきた。
「私が堀川ですけど。」
「あの、少し時間もらえませんか?」
艶やかな天使の輪がある黒髪を揺らしながら訪ねる彼女の言葉に。
私はこくりと頷いた。
屋上へ連なる階段の途中。
屋上への入場が禁止されている私たちの学校で、この場所に近づく人はいない。
内緒話をするにはうってつけの場所だった。
「いきなり呼び出しなんてごめんなさい!」
勢いよく頭を下げて謝る彼女に慌てながらも気にしないように声をかける。
眉を下げながら顔を上げる彼女はやっぱり噂通りかわいい女の子だった。
「私、2組の雪加瀬水菜って言います。」
「あ、私は……」
「堀川凪ちゃんですよね?……水原くんの幼なじみの。」
“幼なじみ”
その言葉が、まるでナイフのように私の心に突き刺さる。