墜落的トキシック
掴めない人
◆
翌週、木曜日。
放課後のはじまりのチャイムを背に、長いため息をついた。
一週間って早すぎる。
『来週中に』って先生は言っていた。
────ということは、明日が提出締切日、だ。
「……」
修学旅行実行委員会で課されたプリントを目の前に掲げて。
依然として真っ白のままのそれに、頭を抱えたくなった。
だから言ったのに。苦手だって。
数学とか物理とか、模範解答があらかじめ用意されている問いの答えを導くことはできる。人並みには。
だけど、答えがひとつに決まらない問いほど難しいものはない。
私のなかにある「答え」が正解になる自信がないから。
そんな私にとって、与えられたこの課題は宿敵に等しい。
なんてったって、曖昧な項目が多すぎる。
「……なんで私、こんなことしてるんだろ」
手に持ったプリントに話しかけるみたいに呟いた。
もちろんプリントが返事をしてくれるはずもなく、独り言として留まる。
なんでこんなことしてるのかって、それは佐和くんが私に押し付けたからだけど。
絶対佐和くんのほうが器用にこなすのに、とそう思ってまたふつふつと怒りが湧いてくる。
ほんと、何様なの?
佐和くんと出逢ってから私のペースは乱されっぱなし。
なにもかも不本意なのに、振り回されてばかりだ。
はー、と再度大きく息を吐きだすと。
「久住さん」
「っ!」
「ため息ばっかだと、幸せ逃げるよ」
背後から、今一番聞きたくなかった声に話しかけられた。
幸せが逃げていくのは誰のせいなんだと、と問いただしたくなる。