墜落的トキシック
「っ!?」
侑吏くんが指先を私のネクタイの結び目に引っかけて、くっと引き寄せた。
がくん、とバランスを崩して。
顔が近づく。至近距離。
な、な、な。
吐息がかかりそうな距離で絡んだ視線はなんだか熱くて、耐えられなくて。
そろり、と視線を下ろすと。
左目、涙袋からわずかに下。
涙が零れたみたいに、小さな粒がひとつ。
思わずじっと見入る。
泣きぼくろなんて、あったんだ。
ここまで近づかなきゃ、わからなかった。
そこまで考えて、今の状況を思い出す。
触れ合っていなくとも、体温が伝わってくるくらいの距離感。
ずくん、と私の身体の中でなにかが波打つ、音。
何の音────。
そうじゃない、そうじゃなくて。
ええと、確か侑吏くんに、何か。
何か答えなくちゃ。
─────『花乃は俺のことなんだと思ってるの』
それだ。思い出した。
つきまとう邪念を振り払って息を吸う。
「侑吏くんになんて、微塵も興味ない!」
そして声を張り上げた私に。
「ふうん」
なんとも興味なさげな相槌を打った侑吏くんは、次の瞬間にはぱっとネクタイを手放した。
解放されて、ぎりぎりまで近づいた距離があっけなく離れていく。
『微塵も興味ない』
とっさに出てきたのはそんな言葉だったけれど。
「……」
嫌いだ。
理不尽だし、
突き放したかと思えば急に近づいてきたり。
理解できない、掴めない。
だけど私は、そんな侑吏くんのこと
少しだけ
ほんの少しだけ
本当は『もっと知りたい』のかもしれない。
ずくん、ずくん、と鳴り止まない心音がそう言っているような気がした。