墜落的トキシック
.
.




「麻美、侑吏くんどこにいるか知らない?」



放課後。

リュックを背負って早々に教室を出て行こうとする麻美を、ちょいちょい、と引き留める。



「佐和くん? もう帰ったんじゃないの?」



こてん、と首を傾げた麻美。

そんな彼女に、私は首を横に振って教室の片隅を指差した。




「まだ学校にいるはず、なんだけど」



侑吏くんの机の上にぽつん、と残された鞄。
それは彼自身のもので間違いなかった。


おかしいな。
どこに行ったんだろう。



むう、と唇をとがらせる私をしばし、しげしげと眺めていた麻美だったけれど、突然「あー、そういえば」と何かを思い出したように声を上げた。



「さっき、見かけたかも。佐和くん」

「ほんとっ?」

「廊下ですれ違ったんだけど、方向的に行き先は空き教室なんじゃなーい?」



見間違いだったらごめん、と。
そう付け加えた麻美にふるふると首を横に振った。


私には侑吏くんの行き先なんて皆目見当もつかないから、真偽はともかくありがたい情報である。




「何用?」

「委員のことで、確認したいことがあって」

「なるほど。頑張れー」




ひらひらと手を振る麻美に心のこもってなさそうなエールで見送られて、教室を後にした。



< 142 / 323 >

この作品をシェア

pagetop