墜落的トキシック
三年前の、雨音がやけにうるさい日だった。
薬品の匂いが鼻につく、白い部屋で母さんは息を引き取ったの。
私が中学二年生のときだ。
何もわからないほど幼くは、もう、なかった。
母さんが入院した日から、いつかこういう日が来るとわかっていた。
ちゃんとわかっていたの。もう母さんの声を二度と聞けないことも、その瞼が二度と開くことがないことも。
辛かった。寂しかった。たくさん泣いた。
だけど、あのとき一番苦しかったのは母さんを失ったことではなかった。
「……」
線香の煙がゆるやかに漂う。
私の隣でハルが瞼を伏せて、手を合わせた。
穏やかな横顔。
何を思っているのだろうか。
彼女が私にとって“母さん”ならば、ハルにとっても等しくそうだもの。
私もそっと瞼を下ろした。
三年も経てば、面影は薄れていく。
母さんを思い出す回数はかなり減った。
記憶の中の声も表情も、おぼろげだ。
でも、きっとそれでいい。
優しくて温かかったことだけが、たしかに刻み込まれている。
その記憶が、私にとって今でもちゃんと“母さん”の形をしているから大丈夫。
それに。
────失ったものをいつまでも求め続けることの方が、時として自分をも他人をも傷つけうることを私は知っている。