墜落的トキシック
「……」
侑吏くんは何も答えなかったけれど、太ももに回された腕にわずかに力が込められた気がした。
それからしばらくして。
「保健室と病院?」
急に単語を羅列した侑吏くんに首を傾げる。
「花乃の苦手な物」
「……あと、雨」
「雨?……へえ」
そのもの自体が苦手というわけではないけれど。……思い出してしまうから。
たぶん、いわゆるトラウマなんだと思う。
「他は?」
「私はそれだけ」
「あっそ」
素っ気ない返事。
ゆっくりの歩幅。
私が落っこちないように、いつもより歩く速度が緩い。
そんな侑吏くんの右耳に太陽の光が当たる。
いつもは見えない小さな黒い粒がその光をキラリと反射した。
「侑吏くんのピアスって、いつも同じだよね。しかも片方だけ」
右耳だけに光る、黒い石。
対する左耳には穴すら開いていない。
「あー、そうだな」
「何で?」
「昔ヤッた女の先輩に開けられた」
「……は?」
「処女奪うってこーゆーことだから、覚えとけって片方だけ。んで、そのときもらったこの片割れのピアスしか持ってない」
絶句。
「……最悪」
聞かなきゃよかった、と思った。
そういえば侑吏くんって女関係だらしなかったな、と忘れかけていたことを突きつけられた気分だ。
ていうか、そのピアス女の人からもらったものなんだ。ふうん。
そんなもの後生大事に身につけてるんだ。へえ。
もやっとするというか、めらっとするというか。
とりあえず、急に面白くない気持ちになる。
そうしているうちに、もう家のすぐ近くまで来ていて。