墜落的トキシック
「あの、送ってくれてありがとう」
助かった、と言うと侑吏くんが私を背中から下ろした。
侑吏くんのネクタイで固定されたひねった方の足は、まだズキズキ痛むけれど、ここまで来ればもう大丈夫。
ネクタイはちゃんと洗って返そう。
「じゃあ」
侑吏くんはくるりと背中を向けて帰っていく。
体を預けていた体温と感触を、ほんの少し名残惜しく感じた。
侑吏くんの後ろ姿が見えなくなって、私も家に帰る。
鍵を開けて中に入ると、リビングに電気がついているのが見えて、ああ、と思った。
「ただいま」
そう告げて、それから。
耳を塞ぎたいけれど、我慢する。
返ってくる返事はきっと今日も。
─────「おかえり、“カコ”」
予想通りのその声に、心がえぐられた。
あの日から絶望と空虚を繰り返す日々の中にいる。
その中で、ただ一人彼だけが私の救いだった。
ハルが、ハルだけが。
だって、今にも崩れ落ちてしまいそうだから。
ハルがいないと、私は。