墜落的トキシック
壊す人
◆
「麻美、おはよう」
「おはよー」
翌朝。
私が登校して一番に声にかけるのは麻美だ。これはいつものこと。
大概麻美の方が先に教室に着いている。
「どうだったー?昨日」
「昨日?」
急な問いかけに首を傾げる。
「昨日、仁科くんの誕生日だったんでしょ」
「あー……えっと、うん。普通だったよ」
「普通って。なんだそれ」
くすくす笑う麻美を横目に昨日のことを思い返す。
普通……だったよね?
ふと頭の中を、ハルの熱い吐息がかかった瞬間がよぎる。
それを振り払うように頭をぶんぶんと横に振った。
……違う。あれは、きっと、何かの間違いだもの。
だって、あのあとは。
何事もなかったようにハルの誕生日をふたりで祝ったの。
ローソクに火をつけて、ハルがそれを吹き消して。
何でもない会話をしながら、ゆっくり時間を過ごした。それだけ。
そこにいたのは、優しくて穏やかないつものハルだった。
玄関先での出来事が、幻だったんじゃないかと思うほどに。
ただ、床に落ちた衝撃で無様に崩れたケーキだけが、あの時間の証拠だった。
「……あ、麻美が教えてくれたケーキ屋さんの、すごく美味しかった」
ありがと、と言うと麻美は顔をほころばせて。
「でしょ。あのお店お気に入りなのよね────って」
「……?」
麻美が不自然に言葉を切ったから、戸惑って瞬きをする。
すると、彼女は私の首のあたりを指差して。
「あんた、それ虫刺され?」
「え?」