墜落的トキシック
「ハル……っ?」
名前を呼んで、とん、と押し返すもハルの体はびくともしない。
それどころか、距離がじわじわと詰められているような気さえする。
「……花乃」
びくん、と体が跳ねた。
耳元で名前を呼ばれたから、だけじゃなく。
つう、とハルの指先が首筋をたどったから。
仕上げのようにハルがとん、と触れたのは、もうかなり薄れてはいるものの、まだ残っている痕。ハルがつけたものだ。
「花乃、こっち見て」
「……っ」
そらしかけた視線を無理やり戻される。
戻した先でハルとしっかり目が合った。
絡んだ視線。
ハルが小さく息を吸って。
「あれからあいつに何か言われた?」
「……っ?」
ハルが言うあれから、はきっと。
『好きだよ』
ハルが私に好きだと言ったあのときから、という意味だろう。
「……それかもうあいつのものだったりして」
小さく呟くハル。
「あいつとキスした?……つーか、どこまでしたの」
「あいつ、って」
誰のこと、と聞こうとしたけれど。
それより先にハルが言葉を重ねる。
少しも待ってくれない。
まるで暴走機関車だ。
「なんとか言って。……じゃないとキスする」
「っ?」
キス、という単語に反射的に顔を背ける。
────けれど、ハルはそれを許してくれなかった。