墜落的トキシック
「やっと気づいた?」
「……え」
おどけたように笑うハル。
面食らって瞬きを繰り返した。
「俺はね、最初からわかってた」
「……?」
「俺が花乃に向ける “好き” と、花乃が俺に向ける “好き” の種類は全然違うってこと」
「……」
「気づいた上で、気づいていないふりをしたし、花乃が気づかないように立ち回ってた」
俺は、ずっと、ずるいんだよ。
花乃が思うような、優しい人間なんかじゃない。
「三年前、佳子さんが亡くなったあの日、チャンスだって思った」
ベッドの端に腰かけて。
思い出話をするような口調。
「花乃が俺から離れられないように仕向けるチャンスだって。俺、最低だからさ、利用したんだよ。弱ってぼろぼろになったところにつけこんだ。泣いて縋って、俺がいなきゃ生きていけないようになればいいって思った」
作戦は上手くいった。
上手く、いきすぎた。たぶん。
「俺はさ、花乃だけが手に入ればよかった。……でも、俺のせいで、花乃がずっとぼろぼろになり続けているのにも気づいてた」
俺を守り続ける義務と、俺にそばにいてほしい願望。
そのふたつのはざまでぐらぐらに揺れているのが目に見えてわかった。
いわば、俺と花乃は傷を舐め合う関係だ。
傷を舐め合っているうちは、傷を忘れることはできない。
花乃がトラウマに囚われ続けているのは、あの日の絶望を忘れられないのは、その弱みにつけこんだ俺のせいだって心のどこかでずっとわかっていた。