スパークリング・ハニー
静かすぎる教室を不思議に思いつつ、きょろきょろと見回すと。
「……あ」
いた。教室のまんなかのあたり、机に頬をつけるように丸くなっている小さな背中。
直後、すーすーと微かな寝息が鼓膜をくすぐる。
「瑞沢、寝てるの?」
案の定、返事はない。
ふ、と思わず口元がゆるむ。誘われるように、彼女が座る席の方へ歩を進めて、途中で息をのんだ。
「……っ」
待って、そこ、俺の席。
いくら隣の席だとしても、間違えるはずがないと思う。瑞沢の鞄は瑞沢自身の席に置きっぱなしだし、俺の机の横には俺のシューズの袋がかかっているし。
間違えようがない、のに。
瑞沢は紛れもなく、俺の席で眠りについていた。
「……あー……」
どうしようか。
なんで俺の席でって、不思議には思うものの。
湧いてくる疑問とはまったく別のものが体の奥でじわりと熱を上げる。好きな子が自分の席で無防備な寝顔を晒してるの、けっこう、やばい。
言いようもない高揚感を覚えつつ、瑞沢の眠る隣の席────瑞沢自身の椅子を借りてきて、腰をおろしてみる。
その拍子にカタン、と音がして、慌てて瑞沢の方を振り向くも、その瞼はぴくりとも動かなかった。