スパークリング・ハニー
篠宮くんはそれ以上何も言わなくて、とうとう私ももう話題に尽きてしまって、手持ち無沙汰に、ぎゅう、とボトルを握る手に力をこめた。
────願いが叶うって、ジンクス。
もしも、ほんとうに叶うのなら、私の願いごとなんてたったひとつしかない。
笑って、篠宮くん。
心の底から笑ってほしい、いちばんしたいことをしてほしい。
好き、に真っ直ぐでいてほしい。
「立てる?……そろそろ戻ろっか」
「あ、うん!」
立ち上がるとき、篠宮くんが手を貸してくれて、使いものにならない足の代わりに肩を貸してくれた。
篠宮くんが近づくその度に、ふわっと香る甘酸っぱいはずのシトラスからは、なぜか甘さが消えていた。
ただつんと酸っぱく残る香りに、心の弱いところが滲みて、やっぱり少し痛かった。