スパークリング・ハニー
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ピーッと一際大きなホイッスルの音とともに試合がはじまった。


一瞬にして引き込まれる。
グラウンドはそれほどの熱気を持っていた。冬なのに、常夏みたいに熱い。


私も、他の観客の人たちも皆固唾を呑んで見守っている。

手のひらに握る、汗。



序盤は相手チームが優勢だった。


何度もシュートを決めようとする相手側の選手の猛攻にあいつつも、ゴールキーパーの梶田くんのおかげでなんとか点にならずに済んでいる。苦し紛れの攻防がしばらく続いた。



試合の流れが変わったのは、後半に入ってからだった。



フィールドの中央付近に、相手選手がドリブルでボールを運んでくる。


それは素人目には隙のない動きに見えたけれど、篠宮くんの体が邪魔をするようにサッと俊敏に動いた。



動きが前までと、全然違う。


キレが鋭く、惑わすような動きに拍車がかかっている。


相手選手がパスを送り出す先を封じ込めたあと、わずかな隙を狙って篠宮くんの足が器用に伸びた。


舵を取るその足に迷いは一切なくて。



「篠宮くん……っ!」



わっと上がる歓声。
思わず私も声を上げて名前を呼ぶ。



ボールを華麗に自分のものにした彼は、試合中には似つかわしくないほどの清々しい笑みを浮かべた────ように見えたんだ。



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「瑞沢!」



篠宮くんの声に顔をあげる。

高くのぼった太陽。

降り注ぐひかりが、篠宮くんの頬を伝う汗をきらめかせている。



つい先ほど試合が終わったばかりで疲れているはずなのに、グラウンドから少し離れた場所で待っていた私を見つけて、走ってきてくれる。

慌てて、私も篠宮くんの方へ駆け寄った。




「待たせてごめん」



ふるふると首を横にふる。

試合が終わってからも片付けなどいろいろとしなければならないんだから、あたりまえだ。

それに、少しも待ったような気はしていないもの。




「篠宮くん、おめでとう……っ!」




いちばんに、言いたかった。




────試合は、私たちの学校の勝利に終わった。



そのなかでも、ほんとうに篠宮くんの活躍はめざましくて。


めざましくて……。




「っ、瑞沢、どしたの」

「うう、なんだか感極まっちゃって……」




頬を涙が伝っていく。

誰かを思ってこんな気持ちになることがあるなんて知らなかったよ。



だって、ほんとうにかっこよくて、きらきらしていて、眩しくて。


何よりも、いい顔をしていた。



ボールを追いかけるその瞳の強さに圧倒される。その熱っぽい目に焦げるの。


ボールになりたい、なんて危うく思ってしまったほどだ。





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