スパークリング・ハニー
ガラガラッと教室の扉が勢いよく開いて、その音にびくっと肩が揺れた。
音がした方を振り向くと同時に。
「瑞沢?」
瑞沢、私の苗字。
はじめて呼ばれたわけでもないのに、それでも心臓がとくんと跳ねるのは。
「篠宮くん……っ?」
きっと、目の前にいるのが、私の名前を呼んだのが、彼だからだ。
先ほどまでグラウンドで太陽のひかりを受け止めて、ハチミツ色に輝いていたダークブラウンの髪が目の前で揺れる。
その毛先から、ぽたりと汗がしたたり落ちた。
汗まで綺麗なんて、と息をのむ。
「ええっと、部活中、だよね」
グラウンドでボールを一心に追いかけていたはずの彼が、ここにいることがにわかに信じがたくてそう尋ねると、彼はこくんと頷いた。
「タオル取りに来たんだ」
教室に置きっぱなしだったから、とロッカーからバスタオルみたいな大きなタオルを取り出して見せてくれる。
「なるほどー」
「瑞沢は、小森待ち?」
「うん」
「退屈じゃねーの?ひとりで待ってるの」
ぶんぶんと首を横に振る。
篠宮くんを眺めているので飽きません、とはさすがに言えなかったけれど。
篠宮くんとこうして話しているなんて、夢みたいだ。
なんて、まるで推しアイドルの握手会に訪れたファンのような気持ちになる。
篠宮くんはアイドルじゃなくて、クラスメイトだけどね。