スパークリング・ハニー
「じゃあ、俺そろそろ休憩終わるから」
戻るわ、と言って篠宮くんはあっけなく背中を向けてしまう。
その姿に名残惜しくならないわけじゃない。
「あ、えと、頑張って!」
だけど、グラウンドを駆け回る篠宮くんを追いかけることが、私にとってなにより至福の時間だから。
頑張って、なんてありきたりなエールを投げかけた。
すると。
「────瑞沢!」
振り向いた篠宮くんが、ひゅん、と何かを投げた。
反射的にキャッチしたそれは、ひんやりとした缶だった。
「えっ、これ……」
「あげる。ここで待ってるの暑いだろ」
「えっ、え?」
きんきんに冷えたサイダーの缶。
手のひらに伝わってくるこの冷たさは、きっとついさっき、自販機で買ったばかりだからだ。
「これ、私にっ?」
なにかの間違いなんじゃないか、と疑う私に、篠宮くんは今日いちばんの笑顔を見せた。
「外から瑞沢が教室にいるの、見えたから」
扇風機だけが回る教室。
その中に立ちこめる夏特有のむわっとした熱気。
だけど、きっと今体が暑いのは、そのせいだけじゃない。
「〜〜〜〜っ!」
私の反応なんて気にも留めずに颯爽と教室を後にする篠宮くん。
その広い背中を見送りながら、耐えきれず缶を持つ手をぶんぶん振り回した。
────名を、篠宮 朝陽くん。
ハチミツ色にひときわ眩しく輝く彼は、私がずっと憧れている人なのです。