世界の終り
そのままあごにめいいっぱいの力を入れた。
彼女の舌は想像以上の歯応えがあった。
ちょっと驚くほど大きな音をたてて上下の歯が噛み合わさり、口の中で彼女の舌がいきおいよく跳びはねた。
ねるく、しつこく、ねばっこい血の味が口中にあふれ、彼女のかけらがびくびくと動くのを舌の上で感じた。
自分が熱く、堅くなっていくのを自覚した。
ゆっくりと、彼女の舌を飲み干した。
体の中に落ちていく感覚。
目を開けて彼女を見た。
軽く閉じてほほえむ唇からごぼごぼとあふれる血は口内を満たして鼻からもあふれ、その笑顔は今までのどれよりも、凄まじいほどに、美しかった。
喜びに体が震えた。
しばらくそのまま見とれていた。
やがて彼女の顔色はどんどん、どんどん白くなっていった。
それは恐ろしいほどに白く。
彼女の美しさはとうとう、この世のものとは思えないほどになった。
そしてしずかに眼をとじた。
幸せそうに、甘えるように、眠るようにゆっくりと胸の中に倒れこんできた。
最後に一度だけ、彼女のからだがびくんと跳ねた。
舌を伸ばし、彼女のあごを染める血を舐めた。