世界の終り
ただ彼女は少しイカレていた。

世間的一般的ジョーシキに照らし合わせると、すこし違っていた。



彼女はいつもにこにこにこにこしていたが、時々ふっと黙り込むことがあった。

そうなるともう話しかけようと抱きしめようと、まぶたにキスをしようと一点を見つめたまま何時間もぴくりとも動かなかった。

そうしていいかげんあきらめて一人でテレビを見ていると、急にまたにこにこにこにこしながらしなやかな手を伸ばして首に抱きつき、うなじをなめてくるのだった。



彼女はふっと思い立ったように家を出ていくときがあった。

そしてそのまま数日帰ってこなかった。

この間は心配で心配で、気も狂わんばかりだった。

そんなことはおかまいなしに彼女は出ていくのと同じように気まぐれに帰ってきて、安堵と怒りでぐるぐる回りながらどうしていたのかと尋ねても、何も言わずににこにことすり寄ってきて、胸の中で手足を丸めてしあわせそうに眠るのだった。
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