夕闇の時計店
「すごい……」

そこには色とりどりの着物がいくつも陳列されていた。

「あれ……?全部、女物??」

「仲の良い奴が店をやってるが在庫の置き場所がないとかで置いていくんだ。不在時に、勝手に……また増えたな」

不満を零しつつも緋瀬さんの顔はどこか嬉しそうだった。

「あとで金を払いに行くから遠慮しないで好きなのを選べ。何か文句を言われても、置いて行く奴が悪い」

「あはは。ありがとうございます。それじゃあお言葉に甘えて」

普段、目にすることがない繊細な作りの着物。

花や蝶の柄は一つ一つ丁寧に刺繍されていて、金糸で豪華に輝く。

「こんなに素敵な着物……私には似合わない気が」

似合わないというか、畏れ多くて着られない。

お金持ちで、容姿端麗な大人の女性が着こなして似合うイメージだ。

「絶対に似合う」

「え……!?」

後ろで声がして振り返ると、着物を手にした緋瀬さんが私の体に合わせるように上下に動かした。

黒地に薄桃色の花が袖にも裾にも咲き誇っている、控えめなようで惚れ惚れするくらい綺麗なデザインだ。
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