ほわいとちょこれーと!─幼馴染みと恋するホワイトデー
 翌日。

 私は昨日同様重い足取りで学校に向かった。


 千早にもミサトにも会いたくない。

 私は授業以外の時間を図書室に隠れるようにして過ごした。


 昼休み、中庭の枯れた花壇の縁に腰掛けてお弁当を食べることにした。

 校舎と校舎の間に阻まれて辛うじて北風は凌げるものの、3月とは言えまだまだひやりと冷たい空気が身に染みる。
 大好きなだし巻き玉子も今日は味がしない。

 食べかけのお弁当箱に箸を置き溜め息を吐く。


(やっぱ食欲ないや…)


 お弁当箱の蓋を閉めた。


 霜が溶けて湿った足元に視線を落とすと、もう一度溜め息がこぼれ落ちた。



「やっぱここにいた」


「!!」


 その時、やにわに背後から声がした。


 私の、大好きな声─


 振り向くとはたしてそこには千早がいた。


「体調どうだ?」

「……」

「あんま無理すんな」


 花壇を回り込んでこちらに歩いてきた千早はうつむいた私の隣に座る。

 そして制服のポケットからピンクの包装紙の小箱を取り出した。


「ほら、これ。昨日渡しそびれたやつ」

「……」


 答えない私の手首を千早がぐいと引いた。


「ちょっ…!」


「手、出して」


 私はその手を振りほどく。


「瑚子?」


 私はお弁当箱の包みを握り締めてうつむいた。


「どうした瑚子?」

「…れない」

「え?」


「それは…受け取れないし、受け取らない」


 私はばっと立ち上がると首を傾げる千早を置いて駆け出した。


「あ!おい、ちょっと待てよ!」


 追ってくる千早にあっという間に追い付かれ肩を掴まれたけど、私はそれを振り払った。

 その瞬間、千早の表情が曇ったように見えた。


「瑚子!なんで逃げんだよ!」

「…逃げてないよ」

「じゃあ何だよ?」

「私は千早のこと…よく分かんないよ。


だからそれは…


受け取れない!」


 私はそれだけ言うと再び走り出した。

 千早はもうそれ以上追い掛けては来なかった。



 走りながら涙が止めどなく流れてくる。


 好きなのに、好きなのに、苦しい。


 裏庭の隅のレッドロビンの生け垣の影に隠れるように座り込む。

 息が切れ、嗚咽が洩れる。


 結局私は午後の授業には出られなくて、そこで膝を抱えて過ごした。


     *  *  *
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