ほわいとちょこれーと!─幼馴染みと恋するホワイトデー
 日も暮れかけた頃。

 部活を終えたクラスメイトが教室に戻る前の人気の少ない間にこっそりとバッグを取りに行った私は、一人ひっそりと帰途についた。


 まだ春が浅い季節、夕方はとても寒い。

 黄昏の町をとぼとぼと歩いているとますます寂しさが募る。


 千早に嫌われてしまったかな?

 よく分かんなくてもにこにこして受け取って、これからもただの幼馴染みとしていられればよかったかな…?



 ガチャ…

 家に着き、黙って玄関のドアを開ける。


「あ、姉ちゃんお帰り」


 玄関にいた遼の脇をすり抜けようとしたその時。


「そうそう、ちーくんからライン来てたよ」

「!?」


 心臓がドキンと跳ね上がった。


 遼は千早のことを『ちーくん』と呼ぶ。


 千早が遼に何の用なの!?

 更には千早のラインをなんでキッズ携帯しかもってない遼が知ってるの!?私だって知らないのに!


 傍らの遼を振り返る。

 多分その時の私はすごく険しい顔をしてたと思う。

 そんな私の様子に言いたいことを察したらしい遼が答える。さすが姉弟。


「あとで塾の帰りにうちに来るって。なんか姉ちゃんに用があるみたい。

 あぁ、ちーくんとはゲームの攻略教えてもらうのに時々ラインしてんの。ママのスマホで」


 て言うことはママもこのこと知ってるの!?どおりでさっきからリビングのドアの陰からこちらをちらちらと窺ってると思ったら…


 それより!


(どうしよう!千早が来る!)


 逃げなきゃ、隠れなきゃ、と思ったところで遼がダメ押しする。


「姉ちゃんいなかったら遅くなっても待たせてもらうから、だってさ」


 ダメだ!逃げ切れない!!


 遼は「姉ちゃん遅く帰ってきてよ。そしたら待ってる間俺ちーくんといっぱいゲームできるから~」なんて呑気なことを言っているけれど、私はもう頭の中がいっぱいだった。



(どうしよう!どうしよう!)


 千早、怒ってるかな?

 それともただ単にあのクッキーの箱を渡しに来たいだけ?

 あぁ!やっぱり千早が分かんないよ!

 何にしても私、どうしたらいい!?


 自分の部屋のカーペットの上にぺたりと座り込み悶々と考えるけど、時間はどんどん経つばかり。そのうち千早がやって来てしまう。


 もうこうなったら…



「決めた!」


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