ほわいとちょこれーと!─幼馴染みと恋するホワイトデー
「はぁぁぁぁ…」
帰り道。
私は深い深い溜め息を吐いていた。
休み時間も何度となく自分のチョコを千早に渡そうと思った。
でも…
『逆よ逆。配るきっかけがないと渡しにくいじゃない』
ミサトのことを思うと渡せなかった。
千早にチョコを渡したくて友チョコ作りを企画したミサト。
それに対してミサトの提案に乗っただけの自分。
ミサトの好きな人を知ってしまった今、千早にチョコを渡すのはミサトを出し抜いている以外の何でもない。
それに…
ブルーの包装紙のミサトのチョコに自分のチョコが敵うとも思えない。
結局私は千早にチョコを渡せないまま帰宅した。
重い気持ちで玄関のドアを開ける。
「あ、お姉ちゃんおかえ…うゎ!」
「……」
ちょうど玄関にいた弟の遼を押し退ける。
そのまま階段を上がりかけて、ふと思い立って振り返った。
「遼」
「え、何?あっ!」
水色のリボンの包みを遼に投げつける。
水色のリボンの、千早にあげるはずだったチョコの包み─
受け取ろうと手を伸ばした遼の指に当たって、受け損ねた包みが足元に落ちる。
ビスケットが包みの中でぱりんと割れた。
「…あげる」
「えっ、あ、ありがと。姉ちゃんがチョコくれるなんて珍し…」
「……」
バタン!
お礼を言う遼を無視して2階に上がり、自分の部屋に引きこもった。
割れてしまったビスケット。他のチョコもきっとぐちゃぐちゃだろう。
でも、これで良かったんだ。
自分の部屋に持ち帰っていたらきっともっと惨めな気持ちだったに違いない。
(千早…)
床に崩れ落ちるように座り込み、膝を抱える。
大好きな千早。ずっと傍にいると思ってた千早。
顔を押し付けた制服のプリーツスカートが、涙に濡れる匂いがかすかにした。
* * *