転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ
満月宮へ引っ越す理由とは
ヴィオラを誘拐しようとした者の黒幕は見つからないまま、二週間ほどが過ぎた。
最初のうちは、自分に与えられたクィアトール宮から外に出ようとはしなかったヴィオラだったけれど、二週間も過ぎれば多少は警戒心も緩んでくる。
警備がしっかりされているところに限定したけれど、庭園での散歩も再開された。
今日はアデリナ皇妃とのお茶会に備えて、午前中の勉強時間が終わったところで、パウンドケーキを焼き始めた。
アデリナ皇妃はミナホ国の食材も好んで食べるから、今日は小豆と抹茶を使ったパウンドケーキだ。向こうで切り分けてもらって、生クリームを添えていただくつもりだ。
「……帰りたいな」
オーブンの中を確認しながら、ぼそりとつぶやく。
帰りたい――ここではなくて、日本に。使ったボウルを洗ってくれていたニイファが振り返る。
「なにかおっしゃいました?」
「ううん、皇妃様が気に入ってくださったらいいと思って」
「この間のお団子もずいぶん喜んで召し上がってましたから、大丈夫だと思いますよ。ヴィオラ様が、こんな才能をお持ちとは全然知りませんでした」
「あ、うん……そうね。国にいた頃は、厨房を使わせてもらえなかったから」
咲綾としての記憶が戻っていなかったら、今のように厨房に入ることはなかった。『ヴィオラ』は、厨房に入ることなんてなかったし、調理の手順だって何ひとつ知らなかった。『咲綾』としての記憶が戻ったからこそできることだ。
最初のうちは、自分に与えられたクィアトール宮から外に出ようとはしなかったヴィオラだったけれど、二週間も過ぎれば多少は警戒心も緩んでくる。
警備がしっかりされているところに限定したけれど、庭園での散歩も再開された。
今日はアデリナ皇妃とのお茶会に備えて、午前中の勉強時間が終わったところで、パウンドケーキを焼き始めた。
アデリナ皇妃はミナホ国の食材も好んで食べるから、今日は小豆と抹茶を使ったパウンドケーキだ。向こうで切り分けてもらって、生クリームを添えていただくつもりだ。
「……帰りたいな」
オーブンの中を確認しながら、ぼそりとつぶやく。
帰りたい――ここではなくて、日本に。使ったボウルを洗ってくれていたニイファが振り返る。
「なにかおっしゃいました?」
「ううん、皇妃様が気に入ってくださったらいいと思って」
「この間のお団子もずいぶん喜んで召し上がってましたから、大丈夫だと思いますよ。ヴィオラ様が、こんな才能をお持ちとは全然知りませんでした」
「あ、うん……そうね。国にいた頃は、厨房を使わせてもらえなかったから」
咲綾としての記憶が戻っていなかったら、今のように厨房に入ることはなかった。『ヴィオラ』は、厨房に入ることなんてなかったし、調理の手順だって何ひとつ知らなかった。『咲綾』としての記憶が戻ったからこそできることだ。