転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ
た。ヴィオラが弱っているのを見越して、セスも手を離してくれたのだろう。

「ああ、あなたを連れて行って、なんの益があるのか気にしてるんですね。ここで殺してもいいんですが、死体が存在しない方が、いろいろと利用価値はあるでしょう?」

 ここで殺してもいい。

 死体には利用価値は存在しない。

 そんなことをなんでもないことみたいに軽く言うから、ヴィオラの背筋は凍りついた。

 これまであまり意識していなかったけれど、やはり彼も軍人ということか。

「わ、私を……つ、連れていくの……?」

「痛い思いをしたくなければ、おとなしくしていください。その方が、生き残る率は高くなりますよ。あなたなら、そのくらいの計算はできるでしょう」

 喉にかかる彼の手に、わずかに力がこもる。ヴィオラは降伏の意を込めて手を上げた。

「……わかった」

 彼の言うことに従うのはとても癪ではある。だが、この場で殺されるのではなく、どこか連れ出すというのなら、途中で逃げ出すチャンスがあるかもしれない。

「では、失礼します。暴れたら――殺しますよ?」

 低い声で囁いた彼は、本気だった。言葉に含まれた鋭い刃。その刃がヴィオラを貫く。

 身体が固まって動けなくなっているヴィオラを彼が抱え上げようとした時だった。

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